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選択に直面する社会基盤整備
Posted on Friday, Jul 23, 2010 16:42
私事だが4月から3か月間、インドネシアに出張していた。その間にも何か書こうと思っていたが、手も頭も回らず、やっと最近落ち着いてきたので、再開である。
我が国社会は、少子高齢化および人口減少が進みつつあり、戦後から長く続いてきた拡大・成長する社会から、成熟し緩やかに縮小しつつ一定水準に収束する社会への転換点を超えたと言えるだろう。同時にその外部環境では、東南アジア諸国の経済・産業競争力が躍進し、相対的に我が国のパフォーマンスが沈下しつつある。また近年の資源高騰と新興資源国の躍進、リーマンショックで加速した経済低迷とデフレ化の継続により、我が国の経済・産業は縮退を余儀なくされている。こうした社会・経済における縮退は、国家財政・税収の減少と各種社会保養負担の増大を深刻化させている。当然のこと、公共投資余力は減退し、社会基盤整備分野への公共投資をめぐっては、多くの議論・論争が巻き起こっている。特に昨年政権政党となった民主党下の政策では、『コンクリートから人へ』と称して、社会基盤整備分野への公共投資を大きな縮減ターゲットに取り上げ、格差是正や社会保障分野などの他政策への財源確保を図ろうとしている。
我が国社会は、少子高齢化および人口減少が進みつつあり、戦後から長く続いてきた拡大・成長する社会から、成熟し緩やかに縮小しつつ一定水準に収束する社会への転換点を超えたと言えるだろう。同時にその外部環境では、東南アジア諸国の経済・産業競争力が躍進し、相対的に我が国のパフォーマンスが沈下しつつある。また近年の資源高騰と新興資源国の躍進、リーマンショックで加速した経済低迷とデフレ化の継続により、我が国の経済・産業は縮退を余儀なくされている。こうした社会・経済における縮退は、国家財政・税収の減少と各種社会保養負担の増大を深刻化させている。当然のこと、公共投資余力は減退し、社会基盤整備分野への公共投資をめぐっては、多くの議論・論争が巻き起こっている。特に昨年政権政党となった民主党下の政策では、『コンクリートから人へ』と称して、社会基盤整備分野への公共投資を大きな縮減ターゲットに取り上げ、格差是正や社会保障分野などの他政策への財源確保を図ろうとしている。
公共投資がいかにあるべきかについては、現在のような困難な社会・経済状況下でなくとも論じられて当然の課題ではあるが、今我々が直面しているそれは、間違うといつまでも抜け出せないトンネルに落ち込む危険性を伴った際どい性格・状況のものであるように思う。わが国のこれまでの社会基盤づくりを振り返った考察を、『国土総合開発に思う;Posted on Thursday, Feb 04, 2010』に少しだが書いてみた。要は、その時代時代において社会が求めているであろうことを希求して社会基盤整備は実施され、先進国として世界に認められるだけの水準を勝ち得たと同時に、すべてが奏功したわけではなく、狭い国土の中に依然として多くの歪みや弱点も内包していることを忘れるべきではない。そして、これまでと大きく違うところがひとつ、これまでは社会・経済は拡大・上昇を志向したベクトルのもとで成長してきたのに対し、現在は縮退・下降トレンドにあり、どうやってこれを上昇に転じていくか、という大きな課題をかかえている点である。東アジア地域における海上物流・航空網における地位低下、資源戦争下での必要資源の確保、国内産業の空洞化、雇用状況の悪化、などに対する経済・産業支援基盤・環境の整備が危急の課題であると同時に、地球環境対策、気候変動や大規模地震などの災害に対する安全性の確保、疲弊する地方・農山漁村地域の振興、高齢化社会への対応など、問題は山積している。経済・産業の体力・国際競争力の維持・向上には、大都市圏・大工業地域などへの投資が急務であるのに対し、国土の均衡ある発展・福祉の向上には、とくに環境整備が遅れる地方・農山漁村への投資が対象になる。限られた投資余力、それもより削減しようとする政策のもとで、課題解決をはかるのは容易ではない。コンクリートだの人だの一聴わかりやすいが、背後に広がる大きな課題構造をないがしろにしかねないスローガンには、注意が必要である。
投資余力が限られるとなると、さあ、どちらに重きを置かなくてはならないか、難しい選択を迫られることになる。
- 将来を志向した戦略的投資か、現在の目前の課題解決・維持のための投資か?
- 投資規模を維持して経済成長を支えるのか、投資を縮小して国民負担の低減をはかるのか?
- 大都市圏域・経済中心地・工業先進地帯の活力強化・成長重視か、縮退する地方・農山漁村山への投資か?
- 経済成長か、格差是正か?
- 経済・産業振興か、環境重視か?
- 一般税か、利用者負担か?
『コンクリートから人へ』どうするのか、総論としての選択に加え、各論としていったいどのような政策・施策が展開されうるのかを提示し、国民の選択に委ねるのか、あるいは取るべき方向性を明示し、重要度・順序を示して理解を求めるのか、きちんとした議論、あるいは論拠を提示し、政策を進めることが必要であると考える。先に転換点を超え、一定水準へと緩やかに縮小・収束する方向へ向かうと述べたが、非常に厳しく、かつ予測の難しい外部環境のもとでは、政策を誤ると一様減少へと突き進んでしまうリスクだって否定できないのであるから。
1記事A4で1ページ程度を目安にしているので、続きは後日。なお、土木学会論説2010.3月版『社会資本を巡る議論、森地 茂 氏』の記事は大変勉強になった。
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インフラ整備のプロセスに思うこと
Posted on Friday, Mar 19, 2010 11:46
今日、我が国の基本的な社会基盤(道路、鉄道、港湾、空港、上・下水道、電気、治水・治山、廃棄物処理、漁港などなど)の整備水準は、充足状態に近づきつつあると言ってよいだろう。このうち、国民生活・経済活動を支えるために絶対に必要な基盤であるインフラ(道路、鉄道、上下水道、防災分野など)について、中村英夫氏(武蔵工業大学学長)は、これらを必需型のインフラと呼んでいる(土木学会誌2009-2月号)。戦後からしばらくの間、我が国のインフラ整備は、この必需型インフラの充足が大きな命題であった。そこでは、拡大・成長しつづける社会的需要を背景に、必需型インフラの必要性は自明であるところを起点にして、インフラ整備の社会的プロセスが構築されてきた。中村氏の言を借りることになるが、インフラ整備に関する判断は、どの事業を先に進めるかという優先度の問題となる傾向があったこと、その決定において科学的合理性だけでなく政治性にも左右されてきたという側面を持っていた。
こうした環境のもと、公共の整備事業を推進する現場にあっては、事業者である公が発注者となり、発注者が計画、仕様・性能の決定、設計等のプロセスをほぼ全て遂行し、建設業者は決められた仕様通りに淡々と工事を行うという形態が一般化してきた(草柳俊二、土木学会誌2009-2月号)。発注者である公的機関は、建設コンサルタントに対して計画関連調査や構造設計、施工検討、建設計画などを外部委託はするものの、事業そのものに対しては、民間会社が積極的に関与して相互補完・協力のうえで事業を執行するというのではなく、受注者が指定されたとおりに業務を遂行しているかを管理するという色合いが濃い。公・民ともに、需要に追随して充足度向上を目指す環境下では、このような形態が効率的でもあったと思われる。
しかしこのような遂行形態のもと、建設関連プロジェクトの契約形態として請負契約が標準となり、発注者に対する受注者の権利が制限されてしまう、いわゆる片務性の問題が顕在化している。もっと大きな問題として、個々の事業の必要性、目的、内容など、事業の動機・意志に関する情報が国民の評価にさらされないまま、事業遂行に関する意志決定がおこなわれがちになり、ともすると、“公共機関は建設業界と癒着して公的資金を建設事業に不当に注入している”というような公共事業に対するプロパガンダにも晒されることになる。
アンチ公共事業キャンペーンの話はさておき、インフラ整備全体を眺めると、中村氏が指摘するように、必需型インフラの充足度向上とともにその事業比率が低下してくるのと並行して、地域開発を目的とする戦略型インフラおよび、効率化・高速化・環境向上などを目的とする効率化型インフラの整備事業比率が増大してきた。そして近年ではこれに加えて、老朽化や機能としての寿命を迎えたストックの維持・更新を行う更新型事業の増大が不可避となっている。このほかには、既存の機能をさらに高質化しようとする高質化事業の比率増大も予想されている。
こうした分野のインフラ整備においては、“事業の動機・目的・内容の妥当性について、情報公開・合意形成を経てはじめて事業が遂行される”、というプロセスを拡充・強化しようとする傾向が進展しつつあると言ってよいだろう。その象徴的イベントが昨年の事業仕分けであったろうか。しかしその場では、社会や市民の生存に関わるリスク低減や、社会・生活基盤を維持するという自明の目的・必要性を持った事業分野についても疑念の目が向けられているようで、残念であった(時間不足・説明不足にも問題はあったが)。また依然として、事業に対して監視する機能を公的機関から国民に移そうとしているにとどまっており、インフラ整備のためのプロセスとして適切であるかどうかについて疑問を感じる。
これからのインフラ整備において、必需型以外の内容の比重が増大する以上、今後国民は監視者ではなく主体者に近い立ち位置で、より積極的に関与しなくてはならなくなるはずである。インフラの整備が、従来どおり官が全部考えて、地域への便益を評価して、シナリオをつくって、事業予算を獲得して、事業を執行してくれるという構図ではなくなるのであるから。コンサルタントは、このプロセスを、市民や発注者と協働して互いの機能を相互補完・連携させ、事業が円滑に、かつ社会的に公正であるとともに公益を最大に実現するように遂行する、という役割を担うべきである。あるいは、そうできるように、資質を向上させることが求められることになろう。同様に、建設事業段階においても、一括請負方式ではなく、発注者・受注者が相互の機能を補完し合いながら事業・プロジェクトを遂行する形態への移行をはかることが、重要な課題となるのではないか。このようなプロジェクトの執行形態は、国際的なプロジェクトあるいは欧米では標準的なものである。また我が国においても、ODAなどで実施している国際事業は、これに近い方式で実施されている。わが国において全く未経験のプロセスではないのである。
PCM, PDM?
Posted on Tuesday, Mar 16, 2010 17:58
1年ぶりにJICAからの業務をやることになった。で再び目にしたのがPDM(Project Design Matrix)である。なにやら七面倒くさい横文字手法だナ程度にしか捉えていなかったのだが、少々真面目に押さえなければいけない様相なので、勉強し始めた。
PDMは、1990年に日本で創設された国際開発高等教育機構(FASID)が、ドイツのGTZ(ドイツ開発公社)で開発された目的志向型プロジェクト立案手法を基に、2001年に“Project Cycle Management:PCM”手法というのを開発し、その中で使われる論理的な枠組み(Logical Framework)という位置づけの、プロジェクトの論理的な構造を現す表のこと。ただしLogical Frameworkに関しては、アメリカ国際開発庁(USAID)が1960年につくった、国際協力プロジェクトに関する方法論が大元であるらしい。現在、外務省やJICAでは、国際援助プロジェクトの計画・立案・実施・評価にいたるプロジェクト全体を監視する手法として、このPCMを適用している。
などなどweb検索でにわかに情報を仕入れていると、どうも巷ビジネスシーンでは、ロジカル・シンキングという手法が全盛となっていて、フレーム・ワークによる問題解決法というのがその具体的な実践手法であるという。昨今の書店のビジネス書コーナーは、この手の解説書で賑わっているらしい。Web上でもPCM、PDM、ロジカル・フレームワークの記事が氾濫しているようである。
PCMによるプロジェクト管理では(厳密にはプロジェクト管理手法ではなく、その計画段階もしくは計画を導入する段階での管理手法か?)、プロジェクトの立案、実施、評価のサイクルにおいて、PDMを用いてプロジェクトの【要約;上位目標・プロジェクト目標、成果(Output)、活動(Activity;行動、業務活動だな)】、【指標】、【指標の入手手段】、【外部条件】らの論理的な相関関係を整理し、全サイクルを一貫して管理する手法を提供するという。PDMの作成プロセスでは、
· 問題の把握、目的の決定、プロジェクトの設定
· 実行中のプロジェクトのモニタリング、評価
を関係者の参加の下に自由に討論し、PDMにまとめることを通じて実践するものらしい。 “問題解決を要する状況下でのプロジェクトの発見と選定、あるいは多数のプロジェクトを運営するプロジェクトオフィスでのプロジェクトの管理と評価に役立つ。”という。
PDMの概要
PDMの概要
要 約 | 指 標 | 指標入手先 | 外部条件 |
上位目標 | |||
プロジェクト目標 | |||
アウトプット | |||
活 動 | 投 入 | ||
前提条件 |
とここまで書いても、まだなんだかよくわからない。道遠し。
<< 参考にしたwebサイト >>
FASiD:“PCM手法とは”,http://www.fasid.or.jp/kenshu/pcm/pcm.html
日本国際保健医療学会/国際保健用語集:“ロジカルフレームワーク”,http://wiki.livedoor.jp/jaih/d/
Project FKDのホームページ:“プロジェクトマネジメント用語集”,http://www.h5.dion.ne.jp/~obkai/index.htmlTerms of Reference (TOR)
Posted on Monday, Mar 15, 2010 12:04
インドネシアの漁港・水産政策関連を調べる業務をやることになった。現地でローカルコンサルタントを使うので、契約のためのTOR内容の整理を始めた。でこのTOR、英語での仕事ではよく出てくる言葉なので、日本語での定義を確かめてみた。常用しているPDIC辞書では、“委託の条件、委任事項、権限、調査事項”、と出ている。
ここで意図している内容(コンサル業務の発注)とはちょっと表現が違うかな(内容はいいのだけれど)。国内の官庁発注のコンサル業務では、特記仕様書、業務指示書に相当するものである。海外相手の業務案件、調達入札案件などでは、TORに添付されて仕様書がついたりするみたいなので、その場合は文書の階層がTOR>仕様書の順になることもあるわけだ。
”Terms of Reference”でググってみると、mickey10044さんという方がブログで、
http://rooseveltisland.blog95.fc2.com/blog-entry-129.html
にて紹介されていた。本文とコメントに、わかりやすい事例・説明があってありがたかった。
国土総合開発に思う
Posted on Thursday, Feb 04, 2010 14:16
昨年末は、政権交代に始まり,補正予算の見直し,事業仕分けを経て,社会基盤整備事業がこの先大きく縮退するであろう社会情勢のなかで,はて,どうやって生きていこうか,などなど思いめぐらす日が続いた。
これまでの国土総合開発について振り返ると,数次の全国総合開発計画の展開を通じて,我が国の社会基盤の量・質は欧米先進国に肩を並べつつあるところまで向上した。太平洋ベルト地帯や産業港湾,空港,高速道路,エネルギー・産業拠点などの整備は,我が国経済・産業発展の心臓・けん引役となった。また,国土の均衡ある発展をめざした社会基盤整備の全国展開により,電気・ガス・水道・下水や道路が全国に行き渡り,国民生活環境は大幅に向上した。この間に,数度の好況,不景気・経済ショックなどを経験するも,安全で快適な社会が構築されて,今日に至っている。
これまでの国土総合開発について振り返ると,数次の全国総合開発計画の展開を通じて,我が国の社会基盤の量・質は欧米先進国に肩を並べつつあるところまで向上した。太平洋ベルト地帯や産業港湾,空港,高速道路,エネルギー・産業拠点などの整備は,我が国経済・産業発展の心臓・けん引役となった。また,国土の均衡ある発展をめざした社会基盤整備の全国展開により,電気・ガス・水道・下水や道路が全国に行き渡り,国民生活環境は大幅に向上した。この間に,数度の好況,不景気・経済ショックなどを経験するも,安全で快適な社会が構築されて,今日に至っている。
しかしそれでも,人口の大都市・経済拠点集中はとどまらず,農山漁村は依然として人口減少と過疎,経済衰退に瀕している。特に,小規模の集落における高齢化率の増大がおさまらず,ついには,集落は消滅の危機に瀕するまでになってきた。その背景には,商工業が発展を続ける中,農林漁業はほぼ一貫して縮退傾向にあり,1次産業分野を基盤とする地方にとって,いか様にもこれを解消することができなかったこと,都市部の産業・生活レベルの向上と相まって若年人口が次々と流出していったことなどがある。地理的に不利で,1次産業主体の地方にあっては,魅力的な地域と安定した雇用や生活サービスをそろえようとしても,都市部の躍進に追いつくことはできなかった。
こうした農山漁村の縮退は,単に社会的な荒廃をもたらすだけでなく,日本人の感性の原点といわれる里山・里海の豊かな環境と歴史・伝統文化,および水源の山を発して河川の流域を通じ,河口から沿岸域をつなぐ広域の環境システムの荒廃をもたらし,国土と沿岸・海洋環境までもを荒廃させてしまう問題のあることがわかってきた。そこで求められているのは,労働人口がその地域に定着できる雇用があり,その場所で満足のできる生活を送ることができる種々の環境(自然,社会,経済,サービス)や,それを支える基盤があることだろう。
縮退を続ける1次産業それぞれに,問題・課題があり,それを直接解決することも重要であるが,これまでできなかったことが容易に可能となるはずはない。となれば,あらたな(有望な)活動分野を政策的に導入し,地域の再生に取り組むことが望まれる。その1つの解として,環境事業分野を活用しようという提案が注目される様になっている。1次産業拠点であることの価値と社会的な役割を,地球環境面でも評価するとともに,積極的にその機能を拡充することで,都市部で達成不可能な環境機能と収支のバランスを補填しあう社会の構造が期待されはじめた。このように,社会的な要請においても,地球環境対策をめぐる活動や産業・地域経済振興が注目されていくものと予想される。と考えるのだが,はて,どうなるのだろう。
縮退を続ける1次産業それぞれに,問題・課題があり,それを直接解決することも重要であるが,これまでできなかったことが容易に可能となるはずはない。となれば,あらたな(有望な)活動分野を政策的に導入し,地域の再生に取り組むことが望まれる。その1つの解として,環境事業分野を活用しようという提案が注目される様になっている。1次産業拠点であることの価値と社会的な役割を,地球環境面でも評価するとともに,積極的にその機能を拡充することで,都市部で達成不可能な環境機能と収支のバランスを補填しあう社会の構造が期待されはじめた。このように,社会的な要請においても,地球環境対策をめぐる活動や産業・地域経済振興が注目されていくものと予想される。と考えるのだが,はて,どうなるのだろう。