忍者ブログ

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

comments

漁業集落の危機,限界集落化

◆漁業集落の危機
 12/1に開催されたシンポジウム,”このままでよいのか~漁業地域の再生を考える~” での講演・パネルディスカッションをまとめ,漁業集落の限界集落化問題について,少し考えを進める.

<漁村・漁業集落の状況>
・・・作成中・・・
 
<魚価の問題,沿岸漁業者のおかれている状況>
 漁業者段階での魚価が非常に安く,また,それが低下する傾向にあって漁業経営を圧迫している.一方,小売価格と漁業者段階の価格差が10倍以上も拡大する事例も珍しくない.つまり,小売価格は相応に高いのに,漁業者段階では非常に安く買い叩かれており,流通段階での中間マージンの比率が価格の大部分を占めている傾向がある.しかし,市場・仲買を通している現在の流通構造では,漁業者は魚価を自分で決めることができない.漁連はこの点で大きな障害となっており,沿岸漁業者が自分の漁獲物を高く販売することを阻害しているという痛烈な指摘が,漁業者の中から出ている.(仲買システムの全てが問題ではないと思うのだが,苦しんでいる漁業者にとって障害となる部分はあると思う.)こうして地域によっては,沿岸漁業は極めて低調な状況に陥りつつある.また,経営が難しいところに後継者を期待するのは困難である.
 こうしたなか,漁業者が自分で値段付けして販売する方策として,朝市などに出店して直販する漁業者も出てきているものの,まだその環境(販売の仕組み,場所など)は十分に整っていない.また離島では消費地から離れているため,物流コストや鮮度の点で本土産品に負けてしまい,価格は低調となってしまう.
 沿岸域の水産資源についても不安がある.昔のように捕れなくなった,昔よりも魚体が小さくなったといった話を各地で聞くことができる.環境の悪化に加え,環境の変化,および漁獲圧力などがその原因と考えられる.
 こうして沿岸漁業を基盤とする地域・集落では,沿岸漁業の活力低下とともに地域社会の活力が縮退しつつあり,若年層の域外流出が高齢化率の増大に拍車をかけているものと考えられる.
 
<漁業・地域再生への取組み例> 
 しかし,沿岸漁業の活性化を図ろうとする取組みも行われており,一部では具体的な効果をあげている事例もある.漁家の収入向上への取組み例では,
  • 未利用・未出荷の魚種の活用,付加価値をつける商品開発(トレーサビリティや各種品質認証,地域独自の料理の商品化,鮮度保持技術の導入など),などを通じて価格や収入拡大をはかる取組み
  • 遊漁の兼業,定置漁業への転換
  • 朝市での直販,市場を通さずに高級食材を供給するルート開発
  • 生産・流通・消費までを包括したフードシステム全体での取り組み
資源再生への取組みとして,
  • 種苗放流や漁獲の管理(網目制限,体長制限など),資源管理に向けた各種調査
  • 漁礁による漁場造成と漁業管理,間伐材での簡易漁礁設置と漁業・遊漁での利用など.
システム・行政施策としての取組みでは,
  • 都市住民からの財政支援を募って新規参入を助成
  • 都市・漁村交流,観光事業,新規事業としてのオーナー制度
などが行われている.
 一方,経済的に豊かな漁業地域では,現状以上の工夫や,将来を見据えての都市住民や外部地域との交流,観光などの経営多角化に関して消極的,あるいは関心が低い傾向のあることが指摘されている.人的,経済的にも余裕のあるうちに,漁業集落が健全に継続できるように,社会環境を考慮した手を打つことを考えることが望ましい.
 
<限界集落化の回避には? 出口はどこにあるか?>
 まずは地域社会の基盤である沿岸漁業経営の安定化,状態の向上をはかり,後継者を確保すること,さらには,関連産業の振興を通じて若年層の地域への定着を実現することである.このため,沿岸漁業に関しては,資源再生産の視点を持った資源利用を通じて人も豊かになる漁業,生産者が価格付けできる事業システムの構築,を目指すことが必要である.その取組みにおいては,
  • 漁業者が抱える問題・課題を的確に認識し,解決するプログラム・活動を提供すること.
  • 生産・流通・消費までを包括したフードシステム全体での取り組みにより,流通や商品価値のフェーズでの課題解決をはかる.
  • 漁業者自らが危機意識をもち,自発的に活動すること
などが求められる.一方,高齢化率の上昇を阻止するという社会的な課題への取組みにおいては,
  • 若年層が漁村地域の事業に関わる機会を提供すること,および,従前のままではなく若者が入り込める新たな事業・プロジェクトが必要である.
  • その方策では,都市漁村交流による直販機会の拡大,観光・エコツーリズム,商品開発,事業機会の拡大,認知・情報発信など.
  • 環境事業分野に活路が開ける可能性がある.
  • 上記のような活動・事業の展開には,漁業地域の問題に包括的に取り組める人材が必要
  • 加えて,集落住民の危機意識と自発的な行動
などが必要である.政策・施策のフィールドでは,
  • 地方自治体単位ではなく,地域・集落・共同体を意識した取組みの必要性
  • 県レベルでは漁業の振興,市町村レベルでは集落・地域の振興を考え,取り組むことになるであろう.
  • 対症療法ではなく予防的施策の展開
が必要である.さらに,アカデミズム・研究者においても,社会科学分野からこの問題への取組みを展開し,問題解決へむけて協働することが強く求められている.すなわち,
  • 現場の課題を動機に,学の領域からの客観的な分析・評価・研究を展開し,
  • 問題解決に向けた提言を行い,現場と協働して地域の問題解決に取り組む.
ことである.

PR

0 comments

限界集落化が進んでいる

 12/1に開催されたシンポジウム,”このままでよいのか~漁業地域の再生を考える~(漁港漁場漁村技術研究所)” に参加した.色々示唆に富むシンポであったことは既に記したが,それを振り返りながら考えていくことにする.
 
まずは,大野 晃 長野大学教授による基調講演をもとに整理した.
 
◆概論としての限界集落
 多くの農山漁村を支える基礎的な社会組織が集落であることは言うまでもないだろう.そこに共通する社会的な問題となっているのが,高齢化率および過疎化の進行とともに,限界集落化の進行である.講演では,平成15年における日本の市区町村別将来推計人口をもとにすると,2030年に高齢化率50%を超える限界自治体(集落ではない)が144に達するとの推計が紹介された.
集落が限界集落に転じていく理由やプロセスは,細かく見ていくと多様なものとなるが,大野教授は限界集落化の視点において,量的な規定を用いて集落を4つの類型に整理している.これが,存続集落(55歳未満が半数以上),準限界集落(55歳以上が半数以上),限界集落(65歳以上が半数以上),消滅集落(無人)である.
 
<農山漁村地域の限界集落化および集落の消滅がもたらすもの>
  • 地域が育んできた伝統芸能・伝統文化の喪失
  • 日本人の文化・感性を育んできた山村の原風景の喪失
  • 山の荒廃と放置林化,および流域環境の劣化,防災機能の低下,沿岸海域の環境劣化
<対応策,地域の再生方策は?>
○過疎化,高齢化が進むのと並行して,公共交通サービスの低下,各種社会・生活・公共サービス(医療,買い物,金融,文化,等々)の低下も進行し,人口流出を助長している.その解決法として大野教授は,集落の社会生活におけるライフミニマムを保障することが必須と説く.これを多目的総合施設“山の駅“と命名し,森林環境保全交付金制度および,総合的な施策内容を盛り込んだ関連法を創設すべしと続ける.
 
○流域の共同管理を進める.すなわち,上流域と下流域の協働と理解をはかり,上流の森林の多面的機能に注目し,その保全を通じて流域の環境を良好に保つ施策を進める.たとえば,森林組合,農漁協および流域住民が協力し,上流域の森林の環境寄与率を評価して,森林環境税などの税制を導入し,これを上流域の環境保全,集落環境の維持のために投入する試みが始まっている.
 
○住民の自発的な行動や提言の必要性を指摘.これを背景にした政策提起型の地域づくりを目指す取組みの必要性を説く.実際に効果を出しつつある自立の事例がいくつか紹介された(高知・旧十和村,徳島・上勝町など).しかし,残念なことに,すでに限界集落化した地域にその余力が十分にあるというケースは少ないだろう.したがって,集落がまだ準限界状態にあるうちに,予防的な施策を投入していくことが必須であることが強く指摘された.

○つまりは,いかに若年層を農山漁村のコミュニティに呼び戻すかが焦点ということであろう.そのアプローチは,
  • 農山漁村と都市間の人的・社会的・文化的・事業的な交流機会の促進,農山漁村地域の生活利便性の向上,1次産業就業者の収入向上などを誘引・導入・促進する施策・制度の展開を,
  • 政策・施策面だけでなく,
  • 住民・市民レベルでの自主・能動的な取組みと協働して推進する.
とまあ,書いているうちに自然と教科書的な解になってしまった.これをもっと掘り下げて,現場の状況に踏み込んで実行できるかが,成否の鍵となるのであろう.シンポではこの先の議論として,漁村地域に対象を絞って,議論がもう少し進められた.

<本稿最後に, 漁業集落の理想像を描くべきでは? >
ここまで,ずっとあまり明るくない話題に終始してきたが,我が国にも,いろんなところがうまく関連しあって,聴くだけで”あぁ,行って見たいな”と多くの人が反応するようなところもあるはずである.たとえば
愛媛県双海町などのように.あるいは,先進諸国の田舎にもそんなところがあるはずである.詳しく調べてはいないが,Yukka(友人,職業;ドライバー,outdoorガイド)の住むフィンランドのバルカウス村,UKのコーンウォールの幾つかの漁村など,少なくてももう少し明るい社会生活がそこで営まれている.
どんな漁村像,漁業集落像を描くことができるだろうか,理想像を描いてみることが必要に思う.


0 comments

限界集落

火曜日に,”漁村地域が危機的状況にあり,その再生を考える”シンポジウムに参加した.その話を書こうと思うのだが,関連する話を別のところで昨年書いていたので,まずはそちらから.

■限界集落道内570ヶ所,うち160ヶ所は消滅の可能性!!
 『北海道では,総数6629集落のうち,65歳以上の高齢者が住民の半数を超える「限界集落」が計570か所あり,うち160か所は将来的に消滅する可能性が あることが,道の「過疎地域・高齢化集落状況調査」でわかった.10年後に限界集落化することが見込まれる55歳以上の住民が半数の集落も,計 1826か所に上っていた.北海道地域づくり支援局は,有識者で構成する懇話会で,過疎の解消に向けた提言をまとめ,道として抜本的な対策を講じる方針 という.(2008年5月28日読売新聞から)』
 
 
■限界集落とは:
 一般的に65歳以上の高齢者が人口の半数を越えると,冠婚葬祭や田畑の仕事,災害時の相互扶助などが困難になる.長野大の大野晃教授が1990年に提唱。2006年の国土交通省などの調査では,全国で7878集落が該当したという. 火曜日のシンポはこの大野教授の基調講演”限界集落と地域再生”で始まった.大変聴き応えのある講演であった.

■限界集落によって生じる問題:
  • 日本の現風景とも言える山村・漁村の風景、およびそこで継承されてきた風土・伝統文化の荒廃と喪失.
  • 集落住民の生活機能の低下,自然減と域外流出で限界化は加速,最終的には集落社会の消滅.
  • 山地・耕地の荒廃による河川流域環境の悪化,防災機能低下,海域の環境悪化.
  • 一次産業生産機能の低下と,それに依存する都市部への経済的ダメージを誘引.
とまあ,暗い話ばかりになる.
さらにはもうひとつ,笑えない問題を指摘する資料をみつけた.農産漁村の一次産業と集落社会を対象とした最近の行政施策では,小地域単位 の合意形成を背景に,対象となる一次産業の支援をはかる取り組みが結構あるらしい.しかし,その受け手が疲弊し,とても小地域社会を維持できなくな りつつあるのだから,せっかくの施策は空振りとなってしまうわけである.


 

 

 


0 comments

海辺の資源を活かした地域活性化

地域興しの光と影・・・とでも言おうか

ず いぶん前の話であるが,平成16年に日本政策投資銀行が『海辺の資源を活かした地域活性化の取り組み-全国8地域の事例紹介とそのポイント』という調査レポートを公開した.同レポートでは,戦後復興から高度成長期を過ぎ,大都市圏への一極集中の是正と国土の均衡ある発展を目指した全国総合開発計画の成果は,1980年代に入ってのち,様相が変わってきたことを指摘する.すなわち,経済・産業の主役・牽引車は,重厚・長大な分野からITサー ビスや多様な金融サービスなどの分野に移行する傾向を強めるとともに,東京圏などの大都市圏への人口,産業・経済中枢機能などの集中が進み,他方,地方圏 において高齢化の加速,若年層の都市部への流出が続いており,地域社会の活力低下が続いていたのである.(この傾向は現在でも変わっておらず,問題は深化 している.)そこで,地域が独自にそれぞれの魅力と個性を見つめなおし,それを基にした活性化に取り組み,雇用・所得・地域愛と誇りの醸成をはかり,自立 した地域を次世代に継承すべし,と指摘する.そして,全国8地域において成果をあげた取り組み事例を紹介している.このレポートで取り上げられた8地域のなかから次の4地域について,近況を探ってみた.
  • 北九州市門司区:歴史的建造物を活用したみなとまちの復興
  • 愛媛県双海町:海に沈む美しい夕日を基にしたまちづくり
  • 青森県市浦村:タラソテラピーによる住民の健康づくり
  • 高知県室戸市:海洋深層水を基にした地域産業の創出

①北九州市門司区:
 北九州門司港区への観光入込客数は,H15年に向かって増加するが,同年をピークにその後H14年水準に微減して,H19年時点までの間は頭打ちとなっている。一方,同じ北九州市のその他の観光スポットは,H9~10年あたりを境に軒並み減少傾向が続いている。これからすると,門司港区におけるまちの復興策が奏功し,最近まで安定した観光入込が続いていると考えられる。そもそも門司港区は歴史的な資産を多く保有しており,その手持ちストックを上手に活用できた事例なのだろうと思う。


  愛媛県双海町:

 町役場職員であった若松氏の情熱と努力によって地元の人が集まり,行動し,夕日をコンセプトにしたイベントが拡大,複合公園施設の整備につながる.さらに,若者をターゲットにした経営コンセプトと魅力ある施設・環境整備・イベントなどを展開し,第3セクターの経営は黒字安定,年間55万人の入込客を得るに至る.見事な成功事例であると同時に,いかにまちおこしが困難なものであるか,また,地域住民の意識と参加,活動を担う人材づくりなど,地元がプロジェクトに入ってどれだけ活発に活動・継続できるか,が成功の秘訣であることを明示している事例であると思う.同時に,拠点さえつくれば済むといった施設整備の限界を浮き彫りにする事例とも言える.

③    青森県市浦村:
 タラソテラピー施設 が平成12年11月にオープン,開業当時は地域包括ケアシステムの推進と相まって,以降の国保医療費が減少しているとの報告があった .高齢化が進む地域の健康増進効果を定量評価するのは難しく,その後に市町村合併によって五所川原市となり,客観的な評価はさらに難しい.年間1万人程度の利用予測で,H18・19年度の平均収支は3300万円の赤字?.しかし,地域住民の生活・福祉向上に寄与し,医療費の削減に貢献しているらしい点で評価に値するのだろうと思う.しかし,赤字分を自治体が負担できる限度と,施設による便益のバランスが,この先も安泰とは限らないであろう。
 一方,同時期に東北地方では他にも2つのタラソ施設が計画されていた.このうち陸前高田市は廃案,宮古市はH15年開業するも経営は厳しく,H19年度決算で1.4億円の累積赤字を抱え,タラソ利用者は開業2年目のH16年度をピークに落ち込みが続く.市浦のタラソは,集客を狙った宮古や高田とは目指す方向が違ったところが幸いしたとも考えられる.
 施設をつくって人を呼ぶという構図の限界,地域の福祉・環境向上で身の丈に合う取り組みが必要ということではないか.

④ 高知県室戸市:
関連商品の売り上げは年間100億円を超えると言われ,「室戸海洋深層水」のブランドは広く定着してきた.しかし,国の「地方の元気再生事業」に採択されている「次世代の湯治場」構想の中核施設でもある,海洋深層水を使った健康増進施設「バーデハウス室戸」は,H18年の開業以来利用者が伸び悩む.さらに,指定管理者の親会社が今年2月に経営破たんしたため,この6月に指定管理者が清算・撤退した.今後は,室戸市が運営会社を設立して運営を引き継ぐとのことである."なにかつくって地方に人を集める"という手法が,いかに室戸海洋深層水であろうとも,簡単にはいかなかったということであろうか.

公共性のある施設をつくり,運営するのであれば,お金の収支だけで白黒つけるのは間違いと思う.しかし,ならば,どうであれば成功なのか,便益あるいは効果が出ているのか,施設やプロジェクトを評価する視点・基準・確固とした達成目標を明示できないといけないのであろう.社会基盤整備のプロセスにおいて,事業者側ではアカウンタビリティーの重要性が頻繁に指摘される.しかし,住民の側においても,もっと自発的に社会基盤整備の場に参加して意見を示すこと,活動すること,自分の住む地域のことを考えることが必要であろう.昨年訪れた英国(漁港施設の整備状況を調査した)で痛感したのは,新しい施設だけでなく,ちょっとした道路や公園の整備・補修などの小さな案件でも,地域の住民の公聴会が頻繁に開催されていること,地域住民が強く望まないと,なかなか基盤整備の予算が回ってこないことなどである.

0 comments