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災害復旧の制度に思うこと

 公共施設の災害復旧に携わってきて,いつも直面すること/問題がある.日本の行政における災害復旧とは,『被害を受けた施設を旧に復する』というのが原則で,古くて現在の施設として耐震性などに不足する場合でも,原則としては壊れる前の状態のものに戻さなればならない.より高度あるいは上位の機能をもつ施設として復することは,機能拡大であるから,災害復旧の予算とは別の予算枠・整備計画のもとで行わなければいけない,ことになっている.そうしないと,財務省にお目玉をくらうことになる,あるいは予算を認めてもらえないことになる.このやりかたも,状況によっては適切で容易に復旧の目的を果たすことができるのであるが,行政全体では,とにかくこれ一辺倒でやろうとすることが多い,というか原則として強いられる.
 しかしこれでは実態にそぐわなかったり,余計な費用がかかったり,などなど,色々と問題が出てくることが多いのが実態.・・・なので,優秀かつ誠意ある現場の行政官は,色々な方便や解釈を,時には我々コンサルとともに頭を捻って,少しでも合理的な対応ができるように,シナリオやら屁理屈を描いて,ことにあたっているのが現状.
 
 今回の震災復旧では,こんな無駄の多いことはやらないで,復旧の目的とゴールを明確に定め,(しかも時間軸,段階的な機能回復なども考慮して),もっとも合理的にゴールに到達する手段を柔軟にとることができるように配慮するべきである.その過程では,国と自治体,省庁同士の間での調整を強力に,かつ弾力的に行うことが必要になるであろう.
 ただ,初めから最終到着点のことを云々して足踏み・綱引きを続けていては,肝心の復旧・復興が滞ってしまうであろう.時間軸を適切に使い分けて,短期の目標,中期の目標,長期の目標,これらのなかでもさらに細分化してタームとその期間の目標を設定し,協力と調整を重ねることが求められていると思う.で,短期においてなら,直近で短時間でつく調整,少々の無理や越権・越境なら受容可能な方策・活動,などをこなすことが現実的になるであろう.その間に,もう少し大きな課題・調整事項は進めていく,という具合に重層的に積み重ねることによって,順次復旧・復興プロセスを進めることが可能になるのではないか.

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津波対策に舵を切るべき

 3月11日の東北地方太平洋沖地震による東北地方の港湾施設への被害において特徴的なことは,

  • 地震動そのものによる施設の変形や破壊は,地盤の液状化被害を含めてあまり深刻ではない.これは,耐震設計技術の向上と,施設の耐震強度を向上させる対策の進展によるものと考えられる.
    [東北地方の港湾における被災状況について(現地調査速報) :
    http://www.pari.go.jp/information/20110311/p20110323.html]
    なお,浦安など東京湾内の埋め立て地での液状化被害はかなり深刻のようである.

  • 地震動による港湾施設被害が比較的少ないものの,津波による施設への被害は甚大である.
 という2点.また全体的な特徴として,津波による広域的な被害が発生していることが挙げられる.

港湾の施設においては,防波堤,防波護岸,防潮堤等における被害が著しく,また港湾利用者の施設にも甚大な被害が発生した.港湾施設そのものへの被害では,防波堤堤体の移動・転倒・流失,胸壁の移動・転倒・流失,構造物基礎周辺の洗掘,埋め立て地盤の洗掘,洗掘による舗装やエプロンの損害などが広範に発生している.建物では,倉庫や建屋そのものの流失や損壊,窓・ドア・シャッターなどの変形や損壊が発生.荷捌きのために置かれていた貨物などにおいては,スタックしてあったコンテナの倒壊・流出,車両(出荷待ちの製品車両,港湾関係者の車両等),各種バルク貨物などの浸水・流失などが発生.流失した貨物や船舶,損壊した建物などは,津波に乗ってさらに別の建造物に次々と衝突して被害を拡大させていった.

 今回の巨大津波による被害は,港湾・漁港・海岸施設への,いわば線的な空間域にとどまらず,背後の産業地域や市街地に面的に広がった.こうしてみると,今回の地震にあって,津波による被害が極めて大きな比重を占めていることに慄然とさせられる.翻ると,津波の来襲が予想される地域における今後の地震防災では,予算を津波対策に集約することが重要な焦点となる,あるいはするべきであると強く考える次第である.
 
 巨大津波への対策として建設された釜石湾口防波堤および大船渡湾口防波堤は,多くの部分がケーソン堤体ごと水没,その多くは港内側に移動した様子である.津波の押し波に屈してしまったわけである.できることなら押し波には耐えて,湾内の水位の上昇を抑制できれば良かったのだが,それでも津波の勢力を幾分かは押さえることができたらしい.津波の対策としてまず想起される方策は,こうした沖合での防波堤による抑制のほか,沿岸部での防潮堤および水門・ゲートによる浸入の防止といった,津波の浸入を直接防ぐアプローチである.しかし今回のように,想定していた規模を越える津波が来襲すると,背後の地域は甚大な被害に見舞われる.

 せめて人命だけは護るとすれば,安全な高所に迅速に避難するシステムと施設を整備することがもう一つのアプローチである.今回の地震で壊滅的な被害を被った複数の地域を概観すると(津波映像を何時間も見続けるうち・・・),
 
  • リアス式海岸湾奥の狭隘で平坦な低地にある市街地:内陸側にいた住民は早々に背後の丘陵地へ避難できたが,海に近いところにいた住民は,避難に時間を要した.さらには,ビルの3階をこえる津波に対して安全な強度と高さをもつ建物はわずかしかなかった.道路はあまり広くなく,かつ複雑なため,自家用車での避難にも時間を要した.
  • 低く平坦な平野がつづく市街地・集落:住宅地ではせいぜい3階建てが少しある程度で,高く強度のある建物が少ない.海岸にあった堤防を容易に越えた津波によって住宅地が広範囲に浸水した.
  • 河口から遡上してきた津波が河川堤防を越流して市街地に浸入.海からと川から浸入してきた津波に襲われた.避難経路が遠回りになったり,寸断されたりしたであろう.
 
 こうした事情を踏まえると,海岸や港湾・漁港背後の集落や市街地にて居住・活動する市民が,想定される津波到達時間内に移動できる,適切な高所を人為的に整備することを,もっと積極的考えるべきであると考える.たとえば,目標とする時間内に背後の丘陵地に避難できない地域において,オシャレなManmadeの高台をつくり,行政,緊急時対応機関,医療機関,あるいは教育機関などの一部を移設するというのはどうだろう.あたらしい街のランドマークにもなろう.また,その平面形状や立体的な形状を工夫することによって,陸上に侵入してきた津波の挙動を制御・抑制・減勢できる可能性もあると考えている.
 
 今回規模の津波がそう近々に発生するとは思えない.時間はたっぷりあるわけなので,(100年以上のオーダーで),あわてて巨費を投じ,最大限のものをつくる必要はなく,その地域社会の変化など,時間軸を適切に見極めて取り組めばよいはずである.どんな避難高台をつくろうか,,,と日に一度は頭の中で想像している

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主要バルク貨物の動向(UNCTADから)

 2009年のドライバルク貨物量(コンテナ含む,積み込まれた貨物量)は,1983年以来初めての減少(前年比-5.2%,55億トン→52億トン)となった.ただし,主要5バルク(鉄鉱石,石炭,穀物,ボーキサイト/アルミナ,リン鉱石)は1.6%増大して21億トンとなった.主要5バルクの内訳をみると,ボーキサイト/アルミナ(-23.2%)・リン鉱石(-38.7%)が大幅に減少し,一方で鉄鉱石と石炭が大きく伸びた.

 鉄鉱石は2008年比8.6%の伸びを見せた.9.07億トンと推算されている輸出量(海上貨物)のうち,約70%をオーストラリアとブラジルが占めている.また世界の鉄鉱石輸出の68%を中国が輸入している.ちなみに日本が2位で12%,韓国5%,EU15.8%となっている.アジア地域における鉄鉱石輸入の伸びが,多地域における貨物量減少を相殺した格好になっている.注目すべきは中国の動向で,鉄鉱石の輸入は前年比で実に40.1%も増大している.これは,中国政府による緊急経済刺激策(鉄鋼の輸出量減少に対する国内需要拡大)が背景となっており,この結果,中国の鉄鋼生産量は1.3%拡大した.この一方で,日本の鉄鉱石輸入は-24.8%,西ヨーロッパ-38.2%,韓国-14.6%という顕著な減少を見ており,中国の動向が国際経済・物流に大きな影響を及ぼしている.

 石炭貨物量は2008年とほぼ同じ8.05億トンとなった.このうち,73.3%を占める燃料炭は2.1%の増大,コークス炭は2.7%の減少であった.原料炭・コークス炭ともに主要輸出国はオーストラリアとインドネシアで,両国を合わせると世界全体の石炭貨物(海上)の62.2%を占めている.またどちらの炭種とも,主要輸入国は日本(22%),EU(21%),韓国(12%),中国(11%),インド(9%)となっている.このように近年,石炭の仕向け先としてアジア地域の比重が大きくなってきている.たとえば南アの輸出先は,これまでのオランダを抜いてインドが第1位となった.また中国政府は2009年,多くの国内炭鉱を,安全上の問題と石炭の国際価格が割安であることから閉鎖し,石炭輸入量を大幅に拡大した.中国の炭鉱は東北部に集まっていて,中国南部の石炭消費地においては,輸送コストが高くなるために,インドネシアなどからの輸入炭の方が安価となる現象も背景にあると思われる.中国によるオーストラリアからの石炭輸入量の急激な増大のため,港湾でのバルク船錯綜,輸送の遅延だけでなく,輸送費の上昇もおきているという.

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2009年,世界の国際海上輸送貨物の動向

2009年,世界の国際海上輸送貨物の動向

 2008年比4.5%の減少となった2009年の国際海上輸送貨物量78.4億トンのうち,発展途上国群のシェアは,GDP成長率を反映して,積込み貨物の61.2%,荷降ろし貨物の55.0%を占める結果となった.2008年がそれぞれ60.6%,49.7%であったことと比較して,積込み貨物のシェアは変わらなかったものの,仕向け地としての発展途上国群のシェアが伸びている.また,アジアのシェアが伸び,国際海上輸送の中心となる傾向を強めていることは前述した.
 過去40年間にわたって,発展途上国群による国際海上貨物量は,世界のシェアの50%~60%を占め,積込み貨物量(輸出貨物)が荷降ろし貨物量(輸入)を大きく上回ってきた.しかし,その間に輸入貨物量は急速に増大を続け,近年では輸入貨物量でも世界シェアの50%を越えるようになってきた.この現象は,これまでは先進国にあった工業生産拠点から,部品の生産拠点が発展途上国に次々に移設され,企業内での国際輸送が急伸したこと,および発展途上国自体の急速な産業発展が背景となっていると考えられる.また,発展途上国における個人収入も急速に伸び,購買力の急速な拡大による消費需要の拡大も大きな要因であろう.

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図:発展途上国群による国際海上貨物シェア
Source : UNCTAD, REVIEW OF MARINE TRANSPORT 2010, Fig. 1.3(b), pp.13.

 2009年,ドライバルク(コンテナ含む)の貨物量は,1983年以来で初めての減少(5.2%)を経験し,52億トンとなった.ただし海上輸送貨物全体(積込み貨物)に対する割合は過去5年間にわたって増大している(2009年は66.2%).またドライバルク貨物量(積込み)の中では,鉄鉱石が最も大きく9.07億トン,続いて石炭8.05億トン,穀物3.16億トン,ボーキサイト/アルミナ66百万トン,リン鉱石19百万トンなどとなっている.一方コンテナ貨物は,コンテナ貨物輸送が始まって以来初めての減少を経験,2008年比9.0%減の124百万TEUとなった.
液体バルク貨物では,やはり2008年後半に始まった経済危機の影響を受けて,エネルギー需要が低下し,原油,石油燃料および液化天然ガスなどの液体バルク貨物量(積込)は2008年比3.0%の減少,約26.5億トンとなった.

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図:国際海上輸送貨物量(積込み貨物,単位:100トン)
Source: Review of Maritime Transport 2010, Fig. 1.2, pp.9, by various issues. Container trade data obtained from Clarkson Research Services, Shipping Review and Outlook, spring 2010.

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2009年の国際海上貨物動向

EONのWebサイト準備やら,ロシアの業務やらで,こっちの方の更新がすっかり後回しになっていたが,ネタが溜まってきたのでボチボチ再開である.
 
 国連(UN)のConference on Trade And Development,略称UNCTADから2010年版の海上輸送レビューが,昨年12月に発行さていたのに気がついた.丁度11月に,世界の海上輸送についてのレポートを書いていて,そのファイナルをクリスマス明けに出したばかりだったので,ちょっと悔しいが,今後はこっちの新しい方をRefer しなくては.ちなみに,ロシアは12/31までworking dayとのことで,31日までにレポートを出せとの強い命令をモスクワ方面から受け,職場の仕事納めもそこそこに,PCに向かった年末であった.

 さてUNCTADレポートによると2009年における世界の海上輸送貨物は78.4億トンで,2008年の82.1億トンに比べて4.5%の減少を示した.海上貨物輸送は,世界経済の動向と密接に相関する.2008年後半に勃発した国際的な経済危機によって,21世紀に入って順調に成長してきた世界のGDPが,2009年には約1.9%の縮小を示した.これは1930年以降で最も大きな減退であった.しかし,先進国群のGDPが軒並み後退するなかで,開発途上国群は,それまでの成長率を落としつつも2.4%の成長を記録.なかでも中国とインドだけはそれぞれ+8.8%および+6.6%という高成長を達成した.

 そして2010年は,中国・インド・ブラジルの高成長(10.0, 7.9, 7.6%)およびその他の発展途上国の成長に支えられ,世界全体で+3.5%の回復を示した.ところで,2008年の世界の海上貨物全体において,積込まれた貨物の40%,荷揚げされた貨物の51%がアジア地域におけるものであった.2009年はこの傾向がさらに強まり,積込まれた貨物の約41%,荷揚げされた貨物の約56%をアジア地域が占めた(比率は,日本の統計データがまだ公表されないので,管理人が図からスケールアップ).経済成長が見事に海上貨物動向に反映している.昨年来あちこちで話しているのだが,“世界の海上物流の重心がアジアにある“と言って過言ではないだろう.

 以下,主要バルク,コンテナについて順次見て行こう.

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