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北極海の漁業規制をめぐる動き(北米)


 
 合衆国漁業委員会(詳しくはThe North Pacific Fishery Management Council,NPFMC)は今年2月,アラスカ沖の北極海の広大な範囲(ベーリング海峡北部からアラスカの北部沿岸沖のボーフォート海,15万平方マイル以上)における漁業活動を禁止する動議を可決した。これは,地球気候変動の結果,当該海域での海氷勢力が縮退し,漁船などの航行が可能になりつつある事態を踏まえ,当該海域の脆弱な環境システムを保全するための予防的な措置として決定したものである。NPFMCは,“この措置は予防的かつ保護的なものであり,将来可能となるであろう北極海での漁業に対して,予防原則と保護的なアプローチをとるためのガイダンスとなるものである”と述べている。この決定は,地球気候変動に起因して禁漁区を設ける初めてのものとなり,産業界からも環境保護グループと同様に多くの賛同が集まる結果となった。この禁漁措置は,気候変動がこの海域に与える影響に関する科学的な調査が完了するまで継続するとしている。
 現時点では,この海域での商業的な漁業は行われていないが,漁業関係者からの関心は高まっている状況にあるという。たとえば,海水温の上昇により太平洋サケの回遊範囲が北上する傾向があり,北極海が漁場として現実味を帯びてきている。なお,先住民族による漁業については従前どおりに行うことが認められている。
arctic_management_area.jpg←禁漁区(NOAA Fisheries News Releases,August 20, 2009)に加筆

 漁業管理計画が策定されるまでは,北極海での商業漁業の禁止措置をとるように提言を続けてきたWWFは,この決定に対してすぐに,“これは,アラスカの漁業関係者による勇気ある,かつ倫理的な決断である”との賛同を示す声明を発表した。ただしこの措置は,北極海のほんの一部を律するに過ぎず,北極海に漁業権を有する他の国においても,米国の決定に追従していくことを求めている。

 その後今年8月,アメリカ政府商務省は,アラスカ沖北極海域(ボーフォート海およびチュクチ海)における漁業(魚類および貝類・甲殻類)の禁止措置を宣言した。この措置は,上記NPFMCの決議に基づいて,これまでは商業漁業が行われてこなかった無垢の海域の保全に関する予防的アプローチをとるものである。ただしNPFMC以外の組織で管理されている太平洋サケおよび太平洋ハリバットには適用されない。また先住民族の生活のための漁業は認められている。この措置では,科学的な調査・研究が行われ,厳密なモニタリングと厳格な漁獲量規制・漁具規制・放棄の規制および漁区規制のもとで,はじめて,将来漁業が許可されることになるであろうと述べている。
 この決定に対し,9月初め,隣国カナダが正式な抗議を米国政府に提示した。というのは,米国が示した禁漁区の西端に,カナダ・米国双方が領海として主張している海域が含まれているからである。カナダは今年4月時点で,米国の今回の漁業規制に関して公式に異議を表明していたが,外交通達が出たのは9月となった。なお,このボーフォート海紛争は,1825年のロシア・英国間の国境協定に始まり,多くの海洋法およびその慣習を背景に,現在は米国・カナダ間で係争されているものである。カナダは,アラスカ州とユーコン州の間の陸の国境線を海上まで延長する領海を主張,米国は海岸線から垂直の境界線を主張している。このため,丁度三角形の海域において,両国の主張が競合している。ただしカナダ政府においても,科学的な調査・分析を通じて適切な漁業のあり方が決定されるまでは,同国の北極海海域における商業漁業の禁止措置を取ることを検討しているという。

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