忍者ブログ

≪ 前の記事

次の記事 ≫

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

comments

オホーツク海の環境保全に向けた日中露の取り組みにむけて


 11/7~8に開催された表記シンポジウムに参加した。この催しの経緯については別途整理するとして、今回のシンポジウムを概括しておく。まず前提として、これまでの各国の科学研究を通じて、アムール川流域はオホーツク海の環境と密接・不可分であることがわかってきた。そこで、このシンポジウムでは、オホーツク海とアムール川流域の環境保全と持続的な利用について、この地域にかかわる日本・中国・ロシアの三か国が、どのように関わることができるかについて学際的に取り組み、科学的議論を展開し、そのアウトプットとして、将来のアムール・オホーツクシステムの持続可能性について議論を深めるための科学者ネットワークをつくろうとするものである。
  2日間にわたるセッションを振り返ると、
 まずオホーツク海を紹介するときの代表的な説明に、季節海氷の存在する南限の海域というものがある。海氷の南限という事実は確かに特徴的であるが、その背後には、複合的で広大な領域にまたがる環境プロセスがあり、豊かな水産資源のみならず、北太平洋の海洋環境においても大きな役割を果たしていることが、最新の研究成果をもとに報告された。
 その一部を簡単に整理すると、オホーツク海北部沿岸で海氷が生成されるときに生まれ、沈降する高塩分濃度の水(ブラインという)により海水の鉛直混合が起こり、これによって栄養塩と溶存酸素の豊富な海水が生まれ、東樺太海流によってオホーツク海の中層に広がる。これがオホーツク海の豊かな基礎生産を支える。またこの海水は千島列島にあたって攪拌・湧昇するとともに、ブッソール海峡を通じて北太平洋の中層に広がってゆく。これが親潮および北太平洋の基礎生産を支えていることがわかってきた。このように海氷は、これらの地域の環境を支える大きなはたらきをしているが、海氷が生成されるのは、北半球の寒極といわれるもっとも寒い地域がサハ共和国のオイミヤコンあたりにあり、この地域から吹き出してくる冷たい風のおかげなのである。
 大陸とオホーツク海の関係はこれにとどまらない。オホーツク海および親潮海域の基礎生産は、アムール川が運んでくる溶存鉄によって律速されているという。この溶存鉄の存在には、アムール川流域の森林および湿地帯が大きな役割をはたしているのである。換言すると、オホーツク海および親潮海域の環境は、極東ロシア・東シベリア・中国三江平原地区にまたがるアムール川流域と密接な関係を持っているということである。また、黄砂やエアロゾルによる物質輸送も、海域の環境にまで影響を及ぼす可能性も指摘された。ただし、信頼できる科学的データは未だ限定的であるとともに散在、偏在しており、客観的な評価を行うためにはあまりにも不十分な状態にある。また、今何が起こっているのか、モニタリングする体制も、広大な領域、多様な観察対象に比べて貧弱な状態にある。
 ここまででも、壮大な環境システムに嘆息するわけであるが、議論はさらに進んでゆく。アムール川は、上記のようにして、その河口の先のオホーツク海の豊かな環境を支えているが、一方では、その流域におけるさまざまな人間活動の影響をうけてきた。もっとも記憶に新しいのは、中国側からアムール川に流れ込む松花江で発生した汚染事故である。ロシアにとっては、上流側から流入する汚染物質によって、住民の健康や環境が脅威にさらされたわけであるが、その汚染物質がオホーツク海に運ばれれば、今度はさらに下流側であるオホーツク海およびそこを利用している日本にも影響が出る。越境する環境汚染の問題、上流側と下流側の問題、開発・発展とのジレンマについて、お互いに放置できないものであることを、皆が認識し始めたのである。シンポジウムでは汚染物質の流入のほかにも、流域の土地利用による影響、すなわち森林伐採や山火事の問題、湿地が農地化されることによる影響、水田開発に伴う地下水位の低下の問題などに関する報告と議論が行なわれた。
 ここで目を転じてみる。ここであげた3国の間には、経済交流の分野でも様々な相互関係を持っている。シベリアの針葉樹材は、かつては日本における大きな需要が、近年では中国やドイツの需要が開発の背景になっている。また、中国の農産品が日本に多量に輸出されるなど、下流側の需要が上流の開発を誘発するという関係も存在し、両者の間が一方通行とは限らない。多くの経済・産業活動によっても、今回注目している地域間には密接な関係が存在するのである。実際これまでに、様々な経済・開発協力が議論され、実現してきたものも多数ある。また、天然資源の利用に関する国際的な相互協定や規制についても存在するが、こと環境面については消極的な内容にとどまる傾向のあることが指摘された。また、二国間に限定されるものがほとんどであった。その背景には、アムール・オホーツクの総合的な環境システムの構造がまだよくわかっていなかったこと、客観的情報の不足、共有の問題意識が醸成されていなかったことなどがあることが指摘された。
 こうした議論と情報交換を通じて今回、主催者となった科学者グループの主導および、参加者の賛同のもとに、アムール・オホーツクコンソーシアムの設立が宣言された。その共通理解として,
  • オホーツク海と親潮の基礎生産は,アムール川が供給する溶存鉄の量に律せられている。
  • アムール川流域における人為的な陸面の改変が,下流の地域の環境に影響を及ぼしており,国境の存在に関わらず,陸域と海域を含めた総合的な保全と適切な利用が求められている。
  • このような問題の理解と解決のためには,複眼的かつ長期的な視点が必要である。また,課題・問題意識の共有とMultilateralなパートナーシップが必要である。
ことが確認された。これに立脚してコンソーシアムでは,参加者の議論と情報の提供・共有を通じて問題意識の共有をすすめるという。今後,コンソーシアムのwebサイトを創設しようというところで散会となった。
 
 
 

PR

0 comments

Comment

Trackback