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津波予報は当たらない?・・・否!

 3月11日午後,札幌での地震の揺れ具合,TVニュースの速報,大津波警報などの発令をみて,太平洋を望む砂浜のすぐそばにある実家に住む妹に電話をかけた.『津波警報が出たことは何回かあるけど,どのときも大した津波は来なかった.だから今度も,ここは大丈夫.』とは,なにを隠そう,彼女の弁.『今度ばかりは,俺からのお願いだから,息子(彼女の)を連れて高いところへ避難してくれ.夜も収まるとは限らないから,どこか高い所,**町がいい,そのあたりのホテルをとってTVで状況を確認しろ.』と必死で説得して,避難させたのであった.市では,避難勧告を出していた.
 500kmも離れた当地(筆者)でこれほどの揺れ,地震の規模がただごとではないことはすぐに分かった.昔家族が暮らした実家は,多分津波を被るだろうと覚悟した.まあ,震源域からは随分離れているので,床上浸水あたりだろうと踏んではいたが.結局,幸いにも津波が実家のある市街地まで遡上することはなかった.その日の夜,様子を聴くと,もう家に戻っており,まわりの住民はだれも避難しなかったという.少し不満そうにも聞こえたのだが,数日後,妹から連絡がきた.『やっぱり避難してよかった.ここも安全ではなかったみたいだった』とのこと.次からは,もっと慎重に判断してくれることと思っている.
 
 気象庁が発令する色々な警報,生活に密着したものから,あまり普通の/あるいは大多数の生活者には現実的でない部類のものまで,たくさんある.その中で,津波警報は,きわめて短い時間で,ほんのわずかの情報をもとに,津波の規模・危険度・到達時刻などを判断しなければならず,非常に難しいもののひとつである.その精度,的中率が低くても,筆者はどうとも思わない.誤差があって当然,低い方に当たらなければ,本当に良かったと考えている.津波予報は,海岸に津波が到達する前に出さなければならない,まさに津波との競争なのである.
 現在の津波予報は,次のようなものである.まず,事前に様々な規模の地震および津波に関する数値計算行って,地震による津波のデータベースをつくり,全国の海岸を66区に分割して,それぞれの区における津波の高さおよび到達想時刻を整理してある.地震が起きた際には,各地の地震観測データをもとに地震の規模および震源の位置を推定し,データベースの中から発生した地震と最も似たパターンの地震を抽出して補正を加え,津波の発生が予測される場合に発表するという方法をとっている.このおかげで,現在では地震発生から約3分以内に津波予報が発令できるようになった.
 しかし,実際に津波がどの程度になるかを評価するには,地震の詳しい震源域や断層の情報をもとに複雑で専門的な作業を行い,さらに実際に発生した津波記録と照合しながらフィッティング,つまり色々なパラメータを調整してもっとも再現性が高くなるようにすり合わせしなければならない.たった3分間でこれだけの作業を行うのは困難である.また,震源域が陸地に近ければ,この3分のうちに津波が到達してしまう場合もある.
 もし,保有している地震モデルが実際に起きた地震と相似していれば,予報の確度は高まる.しかし,いつもそうなるとは限らず,津波予報に1メートル,いやそれ以上の誤差があっても仕方ないのである.だから筆者は津波予報を,“あまり大きくない,結構大きい,ものすごく大きい,山のように大きい”,このくらいの感覚でとらえている.勿論,定量的な予報値は尊重しているが.

 『警報といっても当たったことがないから』,と聞き流しては困るのである.また,『3メートルと出たから,3メートルより少し上にいれば大丈夫』と思われても危険である.そこよりは十分に高い所に避難することが必要である.
 
 津波予報は当たらないのか?,そんなことはない.津波予報が抱えうる誤差が結構あることを踏まえて,的確に避難行動をとることが何よりも大事であると考えている.とくに地震の規模が大きな場合は,予報を軽んじないことである.『逃げたのに,ほら何ともなかった』としたら,『それは幸運だった,もし計算通りだったら大事だった.』と考えるべきである.

 大きな災害につながる危険性のある事象に対する予報・予知情報が有効に活用されるためには,社会がそれを適切に受け入れられることが必要である.その素地がないところに,重大な予報・予知情報を流しても,無視されてしまうか,大混乱になってしまうであろう.
学術・技術分野での研究推進もさることながら,広く市民レベルでの防災知識を適切に醸成することも本当に重要である.
 

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